弁護士の廃業の実態とは?主な理由や独立に失敗した際の主な転職先も紹介
この記事では、弁護士の実態について、廃業数や廃業率、登録取消し数を中心に解説します。
弁護士の廃業とは、業務を完全に停止し弁護士登録を抹消することです。廃業してしまう理由は、思うように収入が得られなかったり、激務といわれる弁護士を続けることが生活環境の変化によって困難になったりすることなどが挙げられます。
この記事では、弁護士が廃業してしまう主な理由や、一般的な転職先も紹介します。弁護士の廃業の実態を知りたい人や、廃業しないための業務効率化について知りたい人は、ぜひこの記事を参考にしてください。
- 弁護士の廃業の実態
- 弁護士が廃業する主な理由
- 弁護士の主な転職先
そもそも弁護士の廃業とは?
弁護士の廃業とは、弁護士としての業務を完全に停止し、弁護士登録を抹消する状態を指します。より具体的には、日本弁護士連合会(日弁連)への登録を抹消することです。
弁護士が廃業するケースとしては、主に以下が挙げられます。
- 転職などで自発的に弁護士業務を辞める場合
- 健康上の理由で続けられなくなった場合
- 経済的理由で事務所の運営が困難になった場合
弁護士の廃業には、登録抹消の手続きが必要です。手続きは各弁護士会を通じて行われ、登録が抹消されることで正式に弁護士としての活動が停止されます。
弁護士の廃業の実態
実際に弁護士の廃業がどの程度行われているのか、以下のデータを用いて解説します。順番に見ていきましょう。
- 廃業数の推移
- 廃業率の推移
- 登録取消し数の推移
廃業数の推移
日本弁護士連合会の調査では、弁護士登録取消しの事由は以下の5つに分類されています。
- 裁判官任官による請求
- 法17条3号(退会命令や除名等)
- 法17条1号(欠格事由)
- 請求
- 死亡
ここでは、死亡以外の事由について、弁護士登録が取消された数(=廃業数)を見ていきます。廃業数(件)の推移は、以下の通りです。
年度 |
2014年 |
2015年 |
2016年 |
2017年 |
2018年 |
2019年 |
2020年 |
2021年 |
2022年 |
裁判官任官による請求 |
3 |
4 |
4 |
2 |
3 |
3 |
4 |
3 |
1 |
法17条3号 |
8 |
8 |
5 |
8 |
5 |
5 |
9 |
6 |
10 |
法17条1号 |
6 |
7 |
10 |
7 |
3 |
10 |
6 |
6 |
7 |
請求 |
389 |
332 |
360 |
358 |
379 |
342 |
296 |
360 |
397 |
廃業数 |
406 |
351 |
379 |
375 |
390 |
360 |
315 |
375 |
415 |
※参考:弁護士白書 2023年版 弁護士登録取消し件数の事由別内訳|日本弁護士連合会
上記のデータによると、年度によって違いはあるものの、廃業数は300〜400程度で安定的に推移していることがわかります。
廃業率の推移
ここでは、死亡以外の事由によって弁護士登録が取消された数(=廃業数)が弁護士数に占める割合(=廃業率)を見ていきます。廃業率の推移は、以下の通りです。
年度 |
2014年 |
2015年 |
2016年 |
2017年 |
2018年 |
2019年 |
2020年 |
2021年 |
2022年 |
廃業数(件) |
406 |
351 |
379 |
375 |
390 |
360 |
315 |
375 |
415 |
弁護士数(人) |
3万5,045 |
3万6,415 |
3万7,680 |
3万8,980 |
4万0,066 |
4万1,118 |
4万2,164 |
4万3,206 |
4万4,101 |
廃業率 |
1.16% |
0.96% |
1.01% |
0.96% |
0.97% |
0.88% |
0.75% |
0.87% |
0.94% |
※参考1:弁護士白書 2023年版 弁護士登録取消し件数の事由別内訳|日本弁護士連合会
※参考2:弁護士白書 2023年版 弁護士数(1950年〜2023年)|日本弁護士連合会
上記のデータによると、年度によって違いはあるものの、ここ数年は低めの水準で推移していることがわかります。
登録取消し数の推移
弁護士会への「請求」によらず、さまざま事由によって弁護士登録が取消されることがあります。ここでは、弁護士登録取消し数の推移を見ていきます。推移は以下の通りです。
年度 |
2014年 |
2015年 |
2016年 |
2017年 |
2018年 |
2019年 |
2020年 |
2021年 |
2022年 |
裁判官任官による請求 |
3 |
4 |
4 |
2 |
3 |
3 |
4 |
3 |
1 |
法17条3号 |
8 |
8 |
5 |
8 |
5 |
5 |
9 |
6 |
10 |
法17条1号 |
6 |
7 |
10 |
7 |
3 |
10 |
6 |
6 |
7 |
請求 |
389 |
332 |
360 |
358 |
279 |
342 |
296 |
360 |
397 |
死亡 |
200 |
212 |
199 |
215 |
215 |
219 |
220 |
229 |
253 |
合計 |
606 |
563 |
578 |
590 |
605 |
579 |
535 |
604 |
668 |
※参考:弁護士白書 2023年版 弁護士登録取消し件数の事由別内訳|日本弁護士連合会
上記のデータによると、登録取消し数は500〜600人前後で推移していますが、2022年は10%程度増加したことがわかります。
弁護士が廃業する主な理由
ここでは、実際に弁護士が廃業してしまう主な理由を紹介します。順番に見ていきましょう。
- 開業費や経費をかけすぎてしまったから
- 顧客獲得が上手くいかず収入が不安定になるから
- スキル不足を感じてしまったから
- ライフステージが変化したから
- 何らかの理由で懲戒処分を受けてしまったから
- 転職・起業したから
開業費や経費をかけすぎてしまったから
弁護士の廃業理由の1つに、開業費や経費が過度にかかったことが挙げられます。
弁護士として独立する際には、事務所の設置や設備投資、広告宣伝費など多くの初期投資が必要です。初期費用を過小に見積ってしまうと、経済的に困窮するおそれがあります。
また、経費がかさむことで収益を圧迫し、事務所の運営が困難になることもあるでしょう。
例えば、高額な賃貸料の事務所を借りたり過度に多くの従業員を雇ったりすると、それだけで大きな負担になります。初めのうちは収入が安定しないことが多いため、資金計画が不十分だと廃業に追い込まれることがあります。
顧客獲得が上手くいかず収入が不安定になるから
弁護士の廃業理由の2つ目に、顧客獲得が上手くいかず収入が不安定になったことが挙げられます。
弁護士として成功するためには、顧客を獲得して安定的な基盤を築くことが必要です。しかし、これまでのコネクションが限られており、かつ独立して間もない弁護士はどうしても知名度や信頼度が低く、顧客確保が難しいことがあります。
また、需要が少ない地域や競争が激しい地域で無計画に開業すると、十分な顧客を確保しにくい場合もあるでしょう。例えば、多くの弁護士事務所が存在し競争の激しい都市部で開業を検討した場合、交通事故などの一般的な案件獲得対応のみで売上を立てようとしても、案件の紹介ルートやマーケティング技術などで競争優位性がなければ、顧客獲得が難しいことは想像できると思います。
また、過疎地域ではそもそも弁護士に対する需要自体が少ない場合があり、継続的に収入を確保することが困難になるケースがあるでしょう。
このような理由から当初の想定より少ない収入になってしまうと、廃業のリスクが高くなると考えられます。
スキル不足を感じてしまったから
弁護士が廃業する3つ目の理由は、スキル不足を感じてしまうことです。
弁護士業務は高度な専門知識と経験が求められますが、実務に入ってから自分のスキルが不足していると感じることがあります。特に、新人弁護士や独立して間もない弁護士は、実務経験が浅いために自身の能力に不安を抱くことも少なくありません。
また、毎年法律が改正されたり新たな法律が施行されたりするため、弁護士は日々法律知識をアップデートする必要があります。アップデートを怠ると、周囲の弁護士との差や自身のスキルにおける不足を感じるでしょう。
例えば、法的な問題に対処する際に必要な知識やスキルが不足していると、依頼者に適切な助言やサービスを提供することが難しくなります。また、複雑な案件や高難度の案件に対処するためのスキルが不足し、結果としてクライアントに十分なアドバイスをすることができなかったり、十分な訴訟対応ができないことから、弁護士業務への自信を失ってしまうこともあります。
その結果、弁護士業以外のほか業種へ転職し、弁護士業の廃業に至ってしまうケースもあります。
ライフステージが変化したから
弁護士が廃業する4つ目の理由として、ライフステージの変化も挙げられます。
生活環境の変化に伴って仕事に対する考え方や優先順位も変わることがあります。例えば、結婚や出産、家族の介護など、個人的な事情が原因で弁護士業務を続けることが難しくなることがあります。
また、高齢になり健康上の理由で引退するケースも少なくありません。弁護士業務は精神的にも肉体的にも負担が大きいため、病気や高齢により健康状態が悪化したり死亡したりすると、業務を続けることが難しくなる場合もあります。さまざまなライフステージの変化により、最終的に廃業を選択する人もいます。
何らかの理由で懲戒処分を受けてしまったから
何らかの理由で懲戒処分を受けたことが、弁護士が廃業する理由の5つ目です。
弁護士は法律に基づいて業務を行う必要がありますが、法律違反や職務基本規定違反が発覚すると、懲戒処分が下されることがあります。懲戒処分には戒告や業務停止、退会命令、除名などがあり、特に除名の場合は、弁護士たる身分を失い、弁護士としての活動ができなくなるだけでなく、3年間は弁護士となる資格も失うため、事実上の廃業です。
例えば、依頼者との信頼関係を損なう行為や、不適切な金銭管理、利益相反行為などが原因で懲戒処分を受けることがあります。
また、弁護士としての品位を欠く行為も懲戒の対象となり得ます。重大な懲戒処分を受けたり、複数回にわたって懲戒処分を受けた場合には、弁護士としての信頼を回復するのは難しく、廃業を余儀なくされることがあります。
※参考:懲戒制度丨日本弁護士連合会
転職・起業したから
弁護士が廃業する最後の理由として、弁護士の転職や起業が挙げられます。
仮に弁護士登録が残っている状態でも、法律事務所自体が廃業するケースもあります。弁護士資格を持っていると法律事務所以外でも多様なキャリアパスを選べるので、企業内弁護士(インハウスローヤー)※として企業に転職したり、自分で新たなビジネスを始めたりすることも可能です。
キャリアチェンジをすることで、より安定した収入やワークライフバランスを求める弁護士や、弁護士としての経験を生かして起業する人もいます。新たなビジネスを立ち上げることで、弁護士業務とは異なる挑戦をしたいと考える人も少なくありません。
※企業内弁護士(インハウスローヤー)とは、弁護士資格を保持しながら、企業の社員として雇用される弁護士のことです。
弁護士の主な転職先
法律事務所が廃業した後の転職先の選択肢として、主に以下の3つが挙げられます。順番に詳しく解説していきます。
- 既存の法律事務所
- 企業内弁護士(インハウスローヤー)
- 任期付公務員
既存の法律事務所
弁護士が転職する先として最も一般的なのは、他の法律事務所です。既存の法律事務所に転職することで、新たな環境で経験を積みながら専門性を高められます。
法律事務所の規模や業務内容は多岐にわたります。大手の法律事務所では企業法務や国際案件、中小規模の法律事務所では、個人向けの法律相談や訴訟案件を扱うことが一般的です。
また、自分の専門分野を深めたい場合には、特定の分野に特化した法律事務所に転職するのも1つの方法です。例えば、知的財産法や労働法に特化した事務所では、その分野の最新の法制度や実務に関する知識を深められます。
企業内弁護士(インハウスローヤー)
企業内弁護士、いわゆるインハウスローヤーは企業の法務部門で働く弁護士です。企業内弁護士は企業の日常業務における法的問題に対処し、契約書の作成やレビュー、コンプライアンスの確保、紛争の予防と解決などを担当します。
企業内弁護士は、法律事務所で働く弁護士に比べて、比較的安定した収入とワークライフバランスが得られることが多くあります。企業内弁護士として働く中でビジネスに関する知識やスキルも身につけられるため、キャリアの幅がさらに広がる点が特徴です。
任期付公務員
任期付公務員とは、一定期間に限って公務員として任命される職種です。弁護士資格を持つ人は、法務省や裁判所などの法務関連機関で働くことが多くあります。
任期付公務員として公的機関の法務業務に従事することで、公共の利益に貢献できる点が魅力です。公共政策や行政法務に関心がある弁護士にとって魅力的な仕事といえます。
また、任期が終了した後も、得られた経験や人脈を生かして、再び民間企業や法律事務所に戻ることも可能です。
弁護士が廃業を避けるためには顧客満足度の向上が重要
弁護士が廃業してしまう理由の一例として、開業費をかけすぎたことや、継続的に顧客の獲得ができないなどの理由で経費に見合う売上が確保できず、当初想定していたように事業展開できないことが挙げられます。
そのため、継続的にクライアントから依頼・紹介してもらえるよう信頼関係の構築に努力を惜しまず、顧客満足度を高める工夫を行うことが重要です。積極的に新規顧客獲得に向けた施策を打ち出したり、どのチャネルからの受任率が高いのかなどマーケティングを活用しながら戦略を立てることも必要です。 この記事では、弁護士の集客方法について解説します。
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※引用:ゾンデルホフ&アインゼル法律特許事務所(お客様事例)|LEALA(レアラ)
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